腹腔鏡を用いた肝臓生検
腹腔鏡手術は通常の開腹手術に比べて動物への負担の少ない治療方法ですが、内臓の検査にも用いることができます。
肝臓は、消化酵素である胆汁の生成や、体をめぐる毒素の無毒化(代謝)および体に必要な栄養素の合成を行う重要な臓器です。
触診での評価ができないことと再生能力の高い臓器であるが故に「沈黙の臓器」とも言われ、多くの場合で症状が出た時には肝機能障害が進行してしまっている事から、定期的な健康診断で血液検査を行うことが重要です。
初期の肝障害は血液検査で見つかる事が多いですが、血液検査のみでは実際にどのような病気が肝臓にあるのかの診断はできず、画像検査(X線、超音波、断層CT検査)も合わせて評価することで病気を絞り込みます。
ここまでの検査で異常が認められ、対症療法で改善がなかったり、治療にあたりより詳細な診断をする必要があるときに肝臓生検を行います。
肝臓生検の方法には針生検・コア生検・開腹手術といった方法があります。針生検・コア生検は無麻酔〜鎮静で実施が可能ではあるものの、腹腔内出血時に緊急開腹が必要になるリスクや診断精度の問題があります。開腹は最も大きく組織を採材することが可能ですが、体への負担が比較的多くなってしまいます。
腹腔鏡での肝臓生検はその中間に位置する方法で、全身麻酔は必要ではあるものの、以下のようにメリットが多い方法です。
●腹腔鏡による肝臓生検のメリット
・開腹に比べて低侵襲
・細胞診断に比べ、より診断制度の高い組織診断をするための採材ができる
・高性能カメラで拡大して観察するため、肉眼病変の検出に優れる
・カメラがいろいろな方向を向けるため、開腹手術に比べ観察できる範囲が広い
・出血してもその場で観察しながら止血処置が可能
・同時に避妊手術の実施や他の臓器の観察が可能
●腹腔鏡で診断可能な肝臓の病気の例
肝臓血管異常(門脈微小血管異形成、静脈の小型化など)、慢性肝炎、肝線維症、肝硬変、腫瘍性疾患(リンパ腫、肝細胞癌など)、銅蓄積性肝障害、脂肪肝など
病変のある肝臓(変色し、辺縁は広範囲に不整となっている)
●症例紹介
8か月齢のワンちゃん(ビションフリーゼ)で、神経疾患の精査の過程で軽度の肝酵素値上昇が見つかりました。神経疾患の検査治療を進めつつ、腹腔鏡下での避妊手術を行うタイミングで同時に肝臓生検を実施しました。採材した肝臓組織の病理検査を行ったところ、肝臓血管異常(門脈体循環シャントや門脈血管異形性)を示唆する所見が認められました。この検査結果を受け、手術適応疾患である門脈体循環シャントの存在を診断するためのCT検査を予定しました。
腹腔鏡で肝臓と胆嚢を観察する。肉眼上は異常に見えないが、病理検査で微小血管異常が認められた。
肝臓生検をしている様子
※他院様からの腹腔鏡検査のみのご紹介なども受け付けております。ご気軽にご相談ください。
動物医療センター赤坂
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